会えば必ず会話に熱中したが、筆無精にして環境が変わって以降まったく音信が途絶えてしまったという友人が幾人かいる。
 
 大学の学部生でいたころの、カズサと言う姓の友人もそうだ。
 カズサは名の知られた俊英であり、大学自治の中心者であり、政治にも経済にも詳しかった。間に幾人かの友達が入っていたはずなのだが、大学の3年次には、カズサが大学祭の実行委員で忙しいはずなのにほぼ毎日話をしていたように思う。
 
 大学の文化祭にもなると、熱心さも不熱心さもさまざまな各種団体が参加をする。それらの調整をするだけで文化祭実行委員は忙しいわけだが、カズサは周りがびっくりするぐらい果断に役割をはたした。
 
 文化祭参加の申請が遅れたグループがあった。
 留学生たちが自分たちの郷土料理を披露するというテントだった。その前年にも参加して、売上金でとある発展途上国に学校を建てたという留学生たちである。
 どんなサークルでも申込期間をぴったり区切って、容赦なく参加締め切りをしていたカズサが、アクセントのどこか違う「まだ大丈夫ですか?」という声に「オーケーですよ」と答え、その場でキャンパスへの出入り口に一番近いテント設営地を決定してしまったのである。「ここにしましょう。今年も大人気だと良いですね」と。
 それ、やっちゃって良いの、と聞いたら。
 「オレはあの留学生たちを超える熱意と真面目さのある団体を知らない。あれを最優遇しない大学祭などクズでしかない」ってさらりと答えたものである。
 
 敵も多かった。敵と言うと語弊があるなら、嫌っている者も多かった、と言うべきか。
 ひねくれ者というか、なんというか、そういう時はますます強気になって事を進めた。
 名言も多かったように思う。
 
「『文化祭は自己表現の場である』という考え方も認めなくはない。しかし、あのオタクどもは何だ? 来場者の楽しみようがない落書き展示は? あんなものは一番はじっこで細々とやっていればいいのだ。オレは、文化祭を精神的ストリップショーにしたくない」
 
「常々『大学は勉強だけじゃない』って言い続けていたヤツらがこういう時にどんな動きをするか、観物だぞ。何人の来場者を出せるか、どれだけ人を惹きつけられるか。見せてもらおうじゃないか」
 
「模擬店が出るだけなら、縁日と同じだ。テキ屋集団と同レベルというわけだ」
 
「在籍者数と来場者数を比べてみるといい。幾人が文化祭で活躍しているか。祭りの季節を休日と勘違いしているバカがどれだけ居るか。普段は『講義を面白くしてほしい』とか『大変だから減らしてほしい』とか言い、いざこういうイベントになると何もやらないでサボる。大して勉強していないヤツに限って文句ばかり、愚痴ばかり。教授たちはあきれるぐらい寛大だと思うよ」
 
 
 ひかえめに異議を唱えてみた時もあった。
「そうは言っても、いろいろな状況があって全力を尽くせないのかもよ? 楽しくしようと思えばいくらでも楽しくできるのにね」
 
「んー」
 カズサはせきねに対して苦笑してみせた。
 きっと、何を甘いことを、と思ったのだろうなあ。

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