ハッセーとゴン君が、放課後に来た。
 何日か前に学校へ襲撃しに来るというメールをもらったのである。
 卒業して1か月、わざわざ連絡をして会いに来てくれたので、ばっさりと部活を休みにして迎えることにする。
 
 茶髪にしているかなぁ、と思ったら、私服である以外は全然変わってなかった。羽目を外しすぎているわけでもなくて、そういうところがなんか嬉しい。
 
「うえるかむ〜。1か月ぶりの母校はどうですかな?(w」
「なんかまた授業を受けたいッスね」 ゴン君が言う。
「たった1か月なのに懐かしいっす」 ハッセーも言う。
「受けられるんじゃん? 制服着ればまだ大丈夫かもよ?(w」
「赤ジャージ着て、体育出ちゃうとか」
「妙にオヤジっぽい高1が居るナーって。でも体育のセンセなら笑ってそのままにしてくれるかも」
「それもいいよなー(笑」
 
 とりとめのない話をしながら、新年度で居場所がかわった先生のところへ彼らを案内してまわる。
「右手をご覧下さい〜。こちらがトラセンセでございま〜す(w」
「こら(笑」
 高等部でイチバン怖そうなトラセンセの前でバスガイドの真似をして、みんなで大笑い。
 他のどの先生たちも、卒業生のために明るく応対をしてくれた。こういうところがウチの学校の先生たちはすごいなあ、と思う。
 
 職員室をひとまわりして、自動販売機でジュースを買って飲んだ。在籍していた時をなぞるようにして過ごすのも、また趣深いようだった。
 
「あー、やっぱいいよなあー」 ハッセーがしみじみ言う。
「いろいろあったけど、この学校で良かったな、って思う」
「そう? それなら良かったねぇ」
「せきねセンセの授業もおもしろかったし、ねぇ」
「うん」
 ふたりして言うから、照れる。
「ま〜たまた。せきね褒めたって、なんにも出ないから〜」
「別におせじじゃなくて、楽しかったッスよ」 担任もせず、ただ週に2時間の授業に行っていただけのゴン君が、そう言ってくれた。
 
「でも〜中等部でそんなことを言う子は、ぜんっぜん居ませんが〜?(w」
せきねのノリは同じなんだけどね、ちがうのよ。
 毎日、とほーって思うことばかり。
 
 そう言ったら。
 ふたりで顔を見合わせて、それから少し笑いながら話してくれた。 
「センセはね、暗さを抱えるヤツにはおもしろいから」
「苦しいヤツにとって、センセの言うことがすっごいうれしい時があるんだよね」
「なんか褒められているんだか、そうではないんだか、ビミョーなんですが(苦笑」
「わかるヤツにとって、センセの話はすごく良い、ってこと」
 
 ゴン君が、グラウンドを見ながら言う。
「サッカーだって、中学生と高校生では違う。あのゴール前の、赤ラインのサッカーシューズ(の生徒)は上手じゃないですか。中学生らしく、まっすぐにボールに向かっていく。高校生の動きとちがう。わからないけれど、きっとあいつはまだ暗さを抱え込んでない。だから、せきねセンセの言うことはよく理解できないかもしれない」
 ゴン君の言う生徒を見れば、それはせきねの良く知っている生徒だった。
「センセ、あいつ相当うまいよ。背が伸びて、今以上の筋力が付けば、高校のサッカーでもかなりのレベルに行ける。見ていて判る」
「ただ、」
「ただ?」
「途中でケガしたり、スランプになったり、ぐれたりすることがあるかもしれない。そうしたら、センセの言うことがすごくよくわかるんじゃないかな、と思う」
「そういうもんなの?」
「多分。順調な時は、ビシバシ鍛えられたほうがいいと思う。できる限り。けれど、もしそうじゃなくなった時はせきねセンセに居てもらったほうがいいかもしれない」
「マジでつらい時に、センセの話を聞くと気持ちを変えることができるんだよね。中学生はそこまでせっぱ詰まっていないんじゃないかなあ? だからよくわからない生徒がいるのかも」
「意味がよくわからんが……せきねは避難所だということか?」
「というか、大人の授業?」
「なんだそりゃ?」
 ん〜。やっぱりわからん。
 
 
 グラウンドや体育館で部活の指導をしている先生たちにあいさつしてくる、という彼らと別れて職員室に戻る。
 
 
 暗さ、か。
 自分のことにせよ、他人のことにせよ、たしかに翳りの部分を気にかけているような気もする。

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