幸運なことに、ウチのクラスは3限に音楽の授業があった。
 週に一度の授業が合唱祭本番の前日にあり、きちんとした練習ができるのだから有り難いことである。
 
 今年度のせきねは、金曜午前中は研修となっていて学校に出なくても良いのだが、自宅にいてもものが手につかず、普段と変わらない勢いで勤務を始める。
 
 音楽のマツイ先生には、ビデオ撮影をお願いしていた。指導をしながらビデオを撮るという、相当な無理を言っているのだが、快く了承してくださった。
 保護者会のネタとして、授業ビデオはとても良いのである。短めで、生徒みんなが活動をしている場面というと、音楽が一番になってしまうと思う。(体育は男女別。美術は動きが少ない。……国語の暗唱や五色百人一首あたりは好適なのか?)
 
 学校に早めに来れば来たで、あとはぼんやりと茶を飲むなり教材を眺めていればいいのだが、階上の音楽室から微かなピアノの音が聞こえてくるだけでもうダメであった。
 
 音楽室の扉の外にいて、生徒たちの声をじっと聞いていた。
 
 寒々とした廊下に、ほんのかすかに聞こえる合唱は。
 あたたかく、あたたかく聞こえた。
 
 
 4限になって、音楽準備室のマツイ先生にお礼を言いに行った。
 すると、不思議に言葉少なく、先の時間に撮ったビデオを今見るように言うのである。イイから見ろ、というような雰囲気であった。
 
 
 何度も何度も、合唱の練習の中で苦労をし続けた指揮者の子が、少し恥ずかしそうに話をしていた。
 「本番では、今以上に良い合唱にしよう」
 女子たちが、「おー!」と明るい返事。
 とたんに広がる笑い。
 
 静かに、しっとりと前奏が始まる。伴奏の子は去年からさらに上達し、慣れた様子で音を紡いでいく。
 
 合唱曲は、TSUNAMI。
 淡々とした調子から始まり、だんだんと混声3部合唱の和音が広がっていく。
 ソプラノも、アルトも、テノールも、みんなそれぞれに、自分の出せる限りの声で歌っていた。
 
 なんだ、じょうずにできるじゃないか。
 そう思ったら、もう涙が出てきて仕方がなかった。
 
 宿題しない。
 掃除は手を抜く。
 仲良くならない。
 表裏ばかり。
 年度初めから延々と続く身勝手さと怠慢さに絶望し、突発的に退職するか計画的に退職するかをひたすら考えていた気持ちに、ビデオの中の声はまっすぐに突き刺さった。
 
 5分。
 泣き続けた。
 ひたすら。
 
 今年度に感じた時の無い気持ちで。
 
 TSUNAMIという曲を、一生忘れることができない。
 そういう歌にさせられてしまった。

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