勇者メロス
 
 メロスは、けっこう不幸だ。
 若いのに父も母もいない。亡くなっていれば悲しいし、生き別れでもなおつらい。
 そもそも羊を飼って暮らしているのだから、そんなには金持ちでもないだろう。
 
 メロスは、ちょっとあわてんぼうだ。
 妹の結婚式の衣装を事前に用意しておくのは良いとして、日取りも決まっていないのにごちそうまで買ってしまうのは相当なせっかちだ。
 
 メロスは、かなり強引だ。
 いきなり見も知りもしない老人を捕まえて、「町の様子はどうなんだ」と詰め寄ってしまう。老人の方もかなりびっくりしたことだろう。
 「明日、妹と結婚式を挙げてくれ」って婿の牧人に談判しに行くのもすごい。「んなアホな。ちょっと待ってくれ」って言うほうが当たり前。それでも夜じゅう帰らずに言い続けられたら、そりゃあ仕方ないって返事をせざるを得ないだろう。
 自分の身代わりにセリヌンティウスを置いていく、っていうのも無茶である。真夜中にたたき起こされ、いきなり王城に連れてこられ、それで人質もないもんだ。
 
 そんな一般人(?)のメロスが、必死に走る。
 もしかしたら、のんびりと羊飼いをしている間に筋トレでもしていたのかもしれない。
 荒れ狂う川を泳いで渡った。また、山賊から武器を奪って3人も倒す。
 
 そして、途中で力尽き倒れた危機をも脱して、とうとう勇者メロスは走りきった。
 
 なぜ、完走することができたのか。
 なぜ、再び立ち上がることができたのか。
 物語には、「わき出ている清水を飲んで疲労回復した」とある。
 
 もちろん、それもあるだろう。しかしそれだけでは、「口から二度三度と血を吹き出し」ても町へと走り続けた理由にはなるまい。
 
 疲れて、疲れて、疲れきっても、メロスには信実や希望が赤々と燃えていたのである。
 
 人質としてメロスを信じて待ち続ける、セリヌンティウスがいたのである。
 
 
 中学生活、時にはうまくいかないこともあるだろう。
 懸命に生きているがゆえに、つらいことやイヤなことを多く感じることもあるだろう。
 
 日常で、学校生活で、勉学で、部活で、委員会で、人間関係で。
 
 そんな危機にこそ、抱える想いや親友たちが、自分を支えてくれる。
 暴君ディオニスのような者たちには、今のうちに笑わせておけばいいのだ。
 悪意の笑い、冷ややかな笑い、無気力の笑い、そんなものはいずれ消え去る運命だ。
 
 譲れない想いを胸に抱き。かけがえのない友人とともに。
 自身の弱さを越え、最高に充実した日々を過ごそうではないか。

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