幾人かの生徒の家に連絡をし、実習生と今日の反省・明日の打ち合わせをする。21:10ころ。
 
 
「ホントにヘンな電話だったんです」
 
 少し眉をひそめて実習生が言っていた。
 
 なぜかしつこく鳴る内線電話を取ってみると。
 ザーッという音がひたすら聞こえてくる、という。
 
 
「あっはっは。それ、良く聞いていたら『此処は暗い』『此処は寒い』とか言うかもよ?」
「最近ソノ手の映画観てないから怖くないです」
などという軽口をたたき合って打ち合わせ終了。
 
 
 少し疲れ気味の実習生には先に帰宅してもらって、実習日誌を確認し、次に実習生がやる授業を、自分ならどうするかと考えていく。
 例によってと言うべきか、いつの間にかと言うべきか、22:00を過ぎる。
 
 他に人も無くがらんとした職員室に施錠をして退出。
 
 
 
 ……ふと。
 
 他の部屋から、内線の鳴る音がする。
 
 
 ぷるる、ぷるる、ぷるる。
 
 
 外線とは違う音が、誰もいない特別教室から聞こえてくる。
 
 
 
 放置して帰るにはあまりに長い音に、薄暗がりの特別教室に入って受話器を取る。
 
 
 
 ザーッ。
 
 
 
 それは。
 その日の快楽を全て吐き出し終えた、テレビ画面の砂の音。
 
 
 背に悪寒を感じて、受話器を置く。
 
 すぐまた鳴るかもしれないという、バカらしく埒もないことを思って電話を見つめ、一瞬だけなのに、そこにあるナンバーディスプレイの数字を憶えてしまった。
 
 
 
 ……。
 
 
 
 …………体育館管理人室。
 
 
 
 ふたつある体育館。
 
 ひとつは中高一貫の設立に並行して作られた、新しく、2階建ての体育館。
 
 もうひとつは、40年以上にも及ぶ高等部とともに歴史を刻んできた、古く、地下にも施設がある体育館。
 
 それぞれ体育教官室があって、施設管理などを体育科の教員が行っている。
 
 そのシステムが、いつの頃からかは知らない。
 
 しかし、だから「管理人室」なるものは存在していても使われない部屋の筈である。
 
 
 
 地下施設の、卓球場と柔道場の間。
 
 普段、人のいることの方が少ない、体育館管理人室。
 
 
 
 まして夜22:00過ぎ。
 
 生徒どころか、ひょっとすると校内に居るのは自分だけかもしれない。
 
 そもそもが。
 現在ではほぼ使われない「体育館管理人室」から。
 夜に使われる筈の無い「特別教室」へ。
 しかも、「内線」。
 
 無音ではない、途切れることの無いザーッという音。
 人の悪戯なら「無言」電話こそあれ、「絶えず音を出す」というのも手が込み入り過ぎていよう。
 
 
 
 わたしは、怪異を喜びもしないし、無いものと決めつけもしない。
 ただ、その事実が有る、だけだ。
 もしくは、そのものが、在る。
 
 
 
 教室を、見回す。
 
 薄暗がりの中、しらじらしいぐらい空虚な部屋。
 
 
 それからしばし、電話を見つめる。
 
 
 
 なにも、起きなかった。
 
 
 
 中庭に出ると、中等部職員室の明かりがともっている。
 誰も居ないわけではなかった。
 
 
 なんとなく、体育館に行ってみた。
 
 
 中等部職員室の明かりが遠ざかり、暗い中、体育館へとコンクリートの階段を下りてゆく。
 
 
 体育館の、さらに地下。
 
 どんなやんちゃな生徒が、22:00過ぎまで体育館にいるのだろうか。
 
 
 体育館入り口のドアに手をかける。
 
 
 やけに大きく響く、がたがたという音。
 
 
 
 …………鍵は閉められていた。
 
 体育教官は、既に帰宅した後だった。
 
 
 この体育館には、誰も居ない。
 
 
 
 
 ……コノ体育館ニハ、誰モ居ナイ?
 

コメント

寿 慧
寿 慧
2006年6月17日0:29

怖っ!!
僕そんな勇気ないですww

せきね(仮名)
せきね(仮名)
2006年6月17日23:10

いつか夜の校内を探険しような(w
きっとたのしいゾ。ふふふ。

寿 慧
寿 慧
2006年6月18日13:02

え〜、、、でも2人以上なら平気かもw

最新の日記 一覧

<<  2025年6月  >>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293012345

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索