漢文「狐借虎威」終了。
 
 漢文を読むと。
 どこまでも果てがなく黄砂吹き荒ぶ空を想う。
 乾いた血の色が見えるような気がする。
 
 どんなに平和そうに見えても、権謀術数の世界での人の姿を説いているように見えてならないのである。
 
 
 虎がいてね、狐がいる。
 狐は大うそをついて、虎がまんまと騙されてしまったんだよ。
 
 なのに。
 この話は牧歌的情景にとどまらない。
 
 
 王族にして宰相。
 他国にさえ伝わる威名。
 まさしく、国の柱。
 
 王にとって、用いるべき人材の筆頭である。
 しかしそれは同時に自身の地位を脅かす存在でも有る。
 
 楚の宣王は問うた。
 「秦・魏・斉ら北方の国々は我が国の昭奚恤をおそれているということだがそれは真か」と。
 下問された群臣には答えようがない。
 その通りだ="昭奚恤が強い"と言えば、宣王の内心の不安を増大させ、不興を買う。
 そうではない="王が強い"と言えば、事実を曲げ、昭奚恤の不興を買う。
 
 その中で、"魏の出自である"江乙が言うのである。
 「本来なにものにも負けぬ筈なのに、狐の奸智に乗じられ騙される虎がおりますな」と。
 
 その他、幾多の謀略も併せて、昭奚恤は失脚する。
 王は、自身が最も手放してはならないものを捨ててしまうのである。
 
 
 最も重く用いるべき親族、信頼すべき者の言葉を容れず。
 自分の見たい夢を示す者、それも実際には偽りの夢を見せるだけの他人にもかかわらず、あっさり信じてしまう愚かさ。
 
 それは、およそ2300年前の異国の情景であると同時に。
 わたしが眼前にしている一瞬一秒にあっても見えてくる情景である。
 
 
 ……この奈落の王たちの行く末は。
 それもまた。
 一字に莫大な意味を込めた文に示されてしまっている。

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