ある時アーサー王が危地に陥り、暗い森にいた「この世の者とは思えない」醜い婦人に助けられた。援助の代償は、若い立派な騎士の夫を探すこと。結局アーサーは醜い婦人の知恵によって危機を脱した。しかし、あとになって醜い婦人の願いをどうするか悩むことになる。
そのとき「婦人の結婚相手になる」と申し出たのは、円卓の騎士で一番忠義な者・ガウェインであった。
アーサー王は「お前は私の甥なのだから、あの婦人はひどすぎる」と言ったが、理想的な中世の騎士は必ず約束を守るもの。仲間の騎士たちが暗い森から老婆を連れてきて、宮廷で結婚式となる。
他の騎士たちは、みんなおもしろ半分でガウェインをからかった。新婚の妻は、本当に誰から見ても、世にも醜い、顔をそむけたくなるような老婦人であったからだ。まわりからはどうかしていると言われたが、ガウェインは我慢した。
しかし式の後、祝宴も開かれることなく部屋で新婦と二人きりになると、さすがのガウェインも溜息をついた。
花嫁の顔を見ようともしない。
婦人に「何故、溜息をつくのか」と訊ねられ、ガウェインは言った。
「俺がため息ばかりついている理由は三つある。ひとつ、あなたが老人であること。二つ、あなたが醜いこと。三つ、あなたの身分が低いことだ」
それを聞いて婦人は返す。
「ひとつ、確かに私は年老いているが、それだけ人よりも思慮が深く知恵に富んでいるということです。決して、悪いことではありません」
「二つめ、妻が醜いことは、夫にとって幸運です。なぜなら、他の男が言い寄ることを心配しなくてもよいから」
「三つめ、人の価値は生まれや身分で決まるものではありません。魂の輝きによるものです」
ガウェインはその婦人の言葉も正しいと思い、ふと振り返って花嫁を見ると、なんとそこにいるのは、輝くばかりの美しい乙女であった。
「おまえは一体何者だ」と驚いて聞くガウェインに、花嫁は答える。
「実は、私は呪いをかけられて醜い姿に変えられていたのです」と。
そして言う。
「二つの願い事がかなわなければ、もとの姿に戻ることができません。立派な騎士を夫にするというひとつの願いがかなえられたので、私は一日の半分をもとのこの姿で過ごすことができるようになりました。もとの姿でいられるのは、昼がよいですか、夜がよいですか。わが夫よ。お選びください」
ガウェインはこう言った。
「その美しい姿は、二人だけの夜の時間に見せてほしい。できれば、その美貌を他の男たちに見られたくはないものだ」
それに対して、花嫁も自分の意見をはっきり述べた。
「女というものは、他の殿様方やレディとお付き合いするときに美しい姿でいられたら、それはそれは幸せなことなのです」
それを聞いて、しばらく考えたあとガウェインは言った。
「おまえの好きにするがよい」
すると、花嫁が満面の笑みをうかべて言った。
「たった今、二つ目の望みがかないました。私は昼も夜ももう醜い姿に戻ることはありません」
二つ目の願い事は何であったか。
「自分の意志を持つこと」であったのだ。
============================
アーサー王物語というヨーロッパの古典にも、心というものを照らす物語がある。
生徒たちの姿を見ながら、はたして幾人の者が内面を大切にしているか、わたしは考え込む日々を送る。
そのとき「婦人の結婚相手になる」と申し出たのは、円卓の騎士で一番忠義な者・ガウェインであった。
アーサー王は「お前は私の甥なのだから、あの婦人はひどすぎる」と言ったが、理想的な中世の騎士は必ず約束を守るもの。仲間の騎士たちが暗い森から老婆を連れてきて、宮廷で結婚式となる。
他の騎士たちは、みんなおもしろ半分でガウェインをからかった。新婚の妻は、本当に誰から見ても、世にも醜い、顔をそむけたくなるような老婦人であったからだ。まわりからはどうかしていると言われたが、ガウェインは我慢した。
しかし式の後、祝宴も開かれることなく部屋で新婦と二人きりになると、さすがのガウェインも溜息をついた。
花嫁の顔を見ようともしない。
婦人に「何故、溜息をつくのか」と訊ねられ、ガウェインは言った。
「俺がため息ばかりついている理由は三つある。ひとつ、あなたが老人であること。二つ、あなたが醜いこと。三つ、あなたの身分が低いことだ」
それを聞いて婦人は返す。
「ひとつ、確かに私は年老いているが、それだけ人よりも思慮が深く知恵に富んでいるということです。決して、悪いことではありません」
「二つめ、妻が醜いことは、夫にとって幸運です。なぜなら、他の男が言い寄ることを心配しなくてもよいから」
「三つめ、人の価値は生まれや身分で決まるものではありません。魂の輝きによるものです」
ガウェインはその婦人の言葉も正しいと思い、ふと振り返って花嫁を見ると、なんとそこにいるのは、輝くばかりの美しい乙女であった。
「おまえは一体何者だ」と驚いて聞くガウェインに、花嫁は答える。
「実は、私は呪いをかけられて醜い姿に変えられていたのです」と。
そして言う。
「二つの願い事がかなわなければ、もとの姿に戻ることができません。立派な騎士を夫にするというひとつの願いがかなえられたので、私は一日の半分をもとのこの姿で過ごすことができるようになりました。もとの姿でいられるのは、昼がよいですか、夜がよいですか。わが夫よ。お選びください」
ガウェインはこう言った。
「その美しい姿は、二人だけの夜の時間に見せてほしい。できれば、その美貌を他の男たちに見られたくはないものだ」
それに対して、花嫁も自分の意見をはっきり述べた。
「女というものは、他の殿様方やレディとお付き合いするときに美しい姿でいられたら、それはそれは幸せなことなのです」
それを聞いて、しばらく考えたあとガウェインは言った。
「おまえの好きにするがよい」
すると、花嫁が満面の笑みをうかべて言った。
「たった今、二つ目の望みがかないました。私は昼も夜ももう醜い姿に戻ることはありません」
二つ目の願い事は何であったか。
「自分の意志を持つこと」であったのだ。
============================
アーサー王物語というヨーロッパの古典にも、心というものを照らす物語がある。
生徒たちの姿を見ながら、はたして幾人の者が内面を大切にしているか、わたしは考え込む日々を送る。
コメント