体育教官。

2005年6月2日 お仕事
 生徒指導に迷うと、ふらりと体育教官室に行く。
 
 そこには高等部の体育科の先生たちが居て、かつて1980年代のいわゆる"校内暴力の時代"の最前線をくぐり抜けた、厳しさと温かさの指導をかいま見ることができる。ウチの学校が荒れに荒れていた、というわけではないが、他校の生徒らが乱入してきた時もあったし、時代の熱に浮かされた生徒がいたのもまた事実であった。
 
 体育教官は好き勝手。のんびりとしているようでいて、いい加減なようでいる、というのはただの偏見である。
 体育教官は、せきね(仮名)のような"教壇に立つ教員"とは覚悟が根本的にちがう。
 そもそも、体育教官が指導を誤れば、生徒の命が危険にさらされる。
 それも、毎日、毎時。
 だから体育教官には、授業に対する絶大な権限と、強力な指導力、そして限りない信頼が必要なのではないかと思う。
 
 せきねなりに礼を尽くして指導を乞うこともあるし、生徒と応対している様子を窺わせていただく場合もある。
 ありがたいことに、邪魔だろうに邪魔にもせず、若輩にして運動のなんたるかも知らぬせきねに対して丁寧に話をしてくださる。
 
 
 バスケットボール部を烈々たる気迫で率いてきたワタヤ先生が、しみじみとおっしゃったことが忘れられない。
 
 「あと少しで定年になる、今になって思うんだ」
 「俺は家なんか買わず、学校のすぐそばにアパートを借りて、バスケに青春を賭けるヤツを指導して、夜にはアパートに連れてきてメシを食わせ……そういう仕事をしたかったかもしれない」
 
 それを聞いて、かつては"鬼のオチ"と言われたバレーボールのオチ先生が、温雅そのものの笑顔で言う。
 「ワタヤさん、それじゃあんたの奥さんがかわいそうじゃないか」
 「"奥さん"なんて上等なものじゃない、ただの古女房だよ」
 
 少しはにかみながら言い返すワタヤ先生の声を聞いて、ヤリタ先生が、からからと笑う。
 「愛する旦那のため、奥さんもけっこう乗り気になるかもよ」
 「バカ言え」
 
 あたたかい、笑い。
 
 
 古き良き時代。
 
 もちろん、今も昔も教員はラクな仕事ではない。
 むしろ生徒たちの元気があふれる昔の方が大変だったのだろう。
 
 わたしは、こんな先輩たちのあとを継ぎ、せめて自己に恥じない仕事をやっていけるだろうか。

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