友人に会うため、目黒へ行く。最寄り駅の祐天寺から歩いた。
 
 閑静な住宅地が広がっていたが、驚くほどの落書きがそこかしこにあった。
 商店街のシャッターにも。
 真新しく塗られた一般住宅の壁にも。
 黒いスプレーで吹きつけられた英単語は、それは壮絶なものであった。
 
 闇の中でうごめき、さわぎ。
 昼間には臆病にも消え去ってしまう。
 ポルターガイストのような。
 どこにも行き所のない卑小さが塗りつけられた壁を見ていると、怒るよりもむしろ哀しいくらいだった。
 
 なんとか。
 学校や教育や政治や社会が。
 この落書きの主たちを日の当たる場所で堂々としていられるようにできないものだろうか。
 祈るような気持ちで、願わずにいられなかった。
 
 気を取り直し、友人とカレー店「ナイアガラ」で昼食。日本全国の駅長が書いた色紙や、ありとあらゆる鉄道関係のもので埋め尽くされている、とても楽しい店だった。知っている生徒ふたりの顔を思い浮かべて、あとで一緒に来てみたいものだ、と思った。
 
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 教育には、荒廃に抗する力はないのか。
 たくさんの同志たちが討ち死にしかけながら教育に苦闘しているのは、戦闘機に竹槍で向かう愚かさなのか。
 
 帰途、苦悶し悩み、それでもせめて自分の責任を持つ範囲だけは良い環境にしたい、と願って職場に戻った。
 
 月曜日から、また生徒たちが来る。
 きれいに整った教室を。
 14歳たちの、かけがえのない日々の背景にしてあげたい。
 
 
 夜9時。
 カギを開けて教室に入り。
 
 業者まで入って磨き上げられた教室に散らばる、飴の包み紙。
 黒板に、落書き。
 
 誰も居なかったから。
 涙を止めようがなかった。
 
 いかるでもうらむでもなく、ただひたすらにかなしかった。

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